生体内環境におけるDNAの電子移動特性解明


DNA内電子移動の研究はカリフォルニア工科大学Barton教授らによる長距離ホール(正孔)移動の報告以来、飛躍的に発展してきた分野であり、電子ドナー・電子アクセプターを含む合成DNAを用いた膨大な研究例があります。核酸塩基グアニンの酸化損傷はDNAの電子移動特性と密接な関わりがあり、また酵素はDNAを介して電子移動シグナルの伝達を行なっているという報告もあります。しかしDNA内電子移動特性はこれまで主に希薄水溶液中の短鎖DNAを用いて研究されてきました。系をシンプルにすることで詳細な解析が可能になりますが、実際の生体内ではDNAは様々な周囲の環境、タンパクや生体分子との協同により複雑な生命を高機能に維持しています。取り出された単独のDNAは実際のところ本来の高い機能を発揮できていないのかもしれません。
そこで本研究グループでは分子混雑環境下やタンパク存在下、核抽出液中など各種の媒体環境を用いることで、これまでに未解明の生体内環境でのDNAの電子移動特性の解明を目的としています。DNA内の電子移動は光をトリガーとして、DNA内の電子ドナーもしくはアクセプターを励起することで調べることができます。周囲の水分子との接触が少ない分子混雑状態での誘電率の低下や排除体積効果、共存金属イオン、共存タンパクとの相互作用等はDNA内電子移動に大きく影響を及ぼすことが予想されます。最近では特に、周囲の環境や共存分子によって液晶や液滴になるなど、凝縮状態をとるDNAの機能と特性についても着目しています。光照射によって液晶DNA内で発生した一重項酸素による核酸塩基の損傷に関しても、興味深い結果が得られてきています。
このような研究は、今後核内のゲノムDNAやミトコンドリア内DNAにおける電子移動の役割や機能を検討するための重要な基礎研究となると見込んでいます。またDNAの凝縮反応場を分析することで、周囲の環境変化に応じてDNA電子移動がより高効率あるいは高機能に働く条件を見いだし、DNAをターゲットとした新規の医薬品開発や、DNAのユニークな構造と特性を利用した次世代のナノデバイス開発という点でも新たな視点を提供することを目指しています。

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